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水曜日の約束をし、つぎの木曜日に会う約束。
たぶん、来ないだろうな。
と思いつつも、何となく気になりつつも木曜日の仕事終えると勝手に足が、約束の駅の方へ向いていました。
約束の場所までは横須賀線で小一時間、仕事場まではバイクで通っていたため、バイクを駅に置いて(当時はバイクの駐車はあまりうるさくありませんでした)、白と青のストライプの列車に乗り込みました。
対面座席の右側から見えるトンネルのはざまに光る町の灯。
車窓の風景を見ながら、前の彼女と事を思い出していました。
今の場所に引っ越してくる5年前、埼玉の片田舎に療養を兼ねて住んでいました。
それは、生まれた家のキリスト教信仰故、引き裂かれた前の彼女との心の傷を癒すためでした。厳格なカルト・キリスト教の家に生まれてこのかた、子供のころから強制的に、洗脳による独自解釈の「集会」や「奉仕」といった活動に携わり育った日々。日本人であることよりアイデンティティ無私のグローバリズムの落とし子のような「神の民」としての育つことを強制されつづけた子供時代。絶えず「永遠の命」がもらえると教え込まれ、その幻想を逃すまいと必死になり、神の民として生きるその人生こそが本来の人間の姿であり、必要とされる行儀に沿った人生選択、例えば、大学教育否定、柔道の授業拒否、君が代拒否などをするように促される。その組織の中では長老という一種のカリスマが支配し、全世界的組織の末端部分・「会衆」とよばれるコミュニティの中で名声を得るような行為が推奨され、それ以外の生き方は許されない。その規範に従えないものは徐々に居場所がなくなり、その宗派の人間以外との交友は基本的に禁じられているため仕事以外の社会や信者でない親兄弟・親族からは徐々に離れていくとことになる。最終的に「会衆」に居場所がなくなと、周りからすべて切り離された孤独な人生しか残っていないという状態なる。そのため、一度入信してしまうと、この孤独感、疎外感化からの恐怖故何としてでもこの宗教にしがみつこうとする人が出てくる。心と体がバラバラになり、やがて、多くの信者が鬱病になっていく、、、、。
教義に反したということで糾弾された元カノは、その会衆で指導にあった長老の吉田某という男に手籠めにされ、その男と結婚し、43歳の時自殺することになる、、、、、
そんなことを考えているうちに、列車は葛飾区のとある駅に着いた。
列車から降りると、2月の風はまだ冷たかった。
そのまま、改札口へ向かう。
とても階段が長く感じられた。
多分、居ないだろうな。
テレクラだもんな。
やらせに決まってる。
いなかったらすぐ帰ろう。
改札口は、帰宅する人で結構混雑していた。
人をかき分けながら、改札口へ。
改札を出たところにキヨスクが一軒あった。
その横に、一人立っている人がいた。
かなり薄手の茶色のブラス、薄手のジャケットに短めのパンツ。
背の高い人だった。
「〇〇〇さん、ですか?」
「そうだけど。」
本当にいた。
ちょっと、びっくり。
あんな出会い方で、本当に会えるとは思わなかった。
それに冬の服装ではない彼女に二度びっくり。
「軽くどこか行きませんか?」
「いいよ」
最初のデートはこんな風にはじまった。
バブル期に大学生をやっていた名残で、デートの仕方は自然に身についていました。
まずは下調べして、デートのコースを決める。下見も重要です。
行く地域を決めたら、移動手段だけでなく車窓からの風景やたどりつくまでに目に入るもの、店の雰囲気、もし気に入らなからった次の店候補をいくつか選んでみておく。
デート中の会話の準備。例えば、ギャクのネタやジョーク、最新の音楽の情報、はやりのファッションブランドやちまたで有名なスウィーツなど。本屋の立ち読みで女性向けの雑誌を一通りチェック。大体こんな感じで準備します。
最初に選んだ店は、当時話題になっていたモノレール駅直結型のウォーターフロントエリアにありました。
地上30階で、夜景もきれい。
デザイナーズレストランで、ファッショナブルな内装。
テーマが「天空の城ラピュタ」を意識したアミューズメントプレイス。
当時はまだこういうタイプのレストランは珍しく、予約がなかなか取れないというおまけつき。
こいうところなら、会話が途切れても間が持てるしちょっと話して別れるくらいならちょうどいいかなあって思ってました。
行っては入れないと困るので、ダメもとで一応予約は入れていました。予約も前日でしたが、カウンター二席くらいならどうにかなりました。
ラピュタへの長い長いエレベーターに乗りました。
彼女は、背が高くスタイルもいい。
髪型も言った通り、アメリカ人女優のキムベイシンガーみたいにふわふわの髪の毛でした。ちょっと茶髪ポカったけど。顔は不二家のペコちゃんそっくりです。ペコちゃんの頭にモデル体型がくっついている感じで、ちょっと不釣り合いな感じがしました。
初めてです。初デートでキスしたのは。しかもエレベーターの中で。
エレベーターは30階に着き、二人で店に入りました。
「予約の◇◇ですが」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
二人で席に着きまた。
まるで空中に浮かんでいるかのようなバーカウンターはスカイブルーを基調とした色使いで、ブルーの背景の中に様々なワインが浮かんでいます。店には高級感と非日常空間の中でおしゃれなカップルが夜景を楽しみながらデートを楽しんでいます。
「何飲む?」
バーテンをよび、注文を伝えると
「申し訳ございません。当店ではカンパリソーダは置いておりません」
という答え。
「カンパリないって。何か別のものにしない?」
「私はカンパリソーダがいいの!カンパリソーダ!カンパリソーダ!」
大声だ叫んだその声が店中をコダマしました。
客が一斉にこちらを見ます。
「おいてないんだから、しょうがないじゃん。別のものにしようよ」
ますます声が大きくなります。
顔だけ子供でモデルのような外見とは異なり、かなり無茶なことを言います。
結構、びっくりしました。まさかいきなり、カンパリソーダを連呼するとは思いませんでした。
「わかった。わかったから。カンパリ飲めるとこ行こう」
そういって、すぐ店を出ました。
この後、再び悲劇が襲います。
つづく